色彩計画〜建築やインテリアの「色」を考える〜
住宅や店舗、ビルなど建築物の計画を立てる際は、外壁や内装の「色」についてもセットで考えなければなりません。
建築の色彩計画では、デザイン性だけでなく周囲環境に与える影響も考慮します。コンセプトに合うものか、景観を損ねるものでないかなどを総合的に分析・設計することが大切です。
本記事では、建築やインテリアにおける色彩計画について深くお話していきます。国内外の事例もご紹介するので、色彩計画を学びたい方はぜひお読みください。
色彩計画とは「目的や用途に応じた色使いを計画すること」
色彩計画とは、デザインの使用目的や用途に合わせて、色の効果をモノや建物の印象に反映させることをいいます。
たとえば、女性をターゲットにした美容サロンの内装デザインを考えるとしましょう。
この場合、癒しやリラックス効果が高い色を使いながら清潔感のある雰囲気を演出するのが一般的かと思います。
「どの色を使えば女性受けするか」「ゆっくり過ごしてほしい」など、目標達成のために効果的な色使いを考えるのが色彩計画です。
色彩計画は見た目の良し悪しだけでなく、個性やコンセプトを色で表現することも含みます。
また、建物やインテリアだけでなく、企業やブランドのロゴ、商品(パッケージ)のデザインなどでも色の効果が活用されています。
色彩計画における2つの考え方
色彩計画を立てる時は次の2点を並行して考えます。
- コンセプトに合う・売れる・似合う色を提案する【色彩設計】
- なぜこの色なのかを読み解く【色彩分析】
ここからは色彩設計と色彩分析を詳しく解説します。
コンセプトに合う・売れる・似合う色を提案する【色彩設計】
建物やインテリアの色彩計画を考える際、軸となるポイントには次のものがあります。
- 使用目的・用途
- コンセプト
- 周辺環境との調和
- ターゲット層
- 設計者の好みなど
上記のポイントにマッチする色を提案するプロセスのことを「色彩設計」と言います。
たとえば、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会のメインスタジアムとして使用された国立競技場は「杜(もり)のスタジアム」がコンセプトです。
建物全体に国産の木材がふんだんに使われており、木のぬくもりやあたたかみが感じられます。
「コンセプトに合う色使い」という視点で見ると、周辺環境との調和や日本らしさが感じられる落ち着いた色使いがなされています。
このように、軸となるポイントを色使いで体現していくのが色彩設計です。
なぜこの色なのかを読み解く【色彩分析】
色彩計画には、色選びの傾向を考える「色彩分析」というプロセスもあります。
商品のイメージや個人の雰囲気などを見える化する作業の一つで、合う色・調和する色が何色かを読み解きます。
色彩分析の例として、公園にある遊具の色をあげましょう。遊具の主な使用者は子供ですから、遊具の色は子供の目を引くカラフルなものが多い傾向にあります。
しかし、植栽のある公園や自然景観との調和を重視する地域の公園では遊具が青一色であったり、茶色や木製で統一されていることがあります。
同じ遊具でも地域や環境によって色が違うのはなぜか?を考え、読み解くのが色彩分析です。
建築・構造物の色彩計画が周囲環境に与える影響
「赤は情熱の色」「緑は安らぎや落ち着きを表す色」のように、一つひとつの色には心理的な効果があります。
見える色が大きいほど心理的効果も大きくなるため、建築物の色は建物の利用者や周辺の景観に配慮されている場合が多いです。
北海道釧路市では、老朽化した建築物の外壁改修で周囲の景観と調和を図った事例があります。
この建築物(職員宿舎)は周囲の視線を集めやすい高台にあり、周辺のどの場所にいても見通せる特徴があります。
周辺には釧路市のシンボルでもある博物館があることから、建築当初は博物館と職員宿舎を同系色で揃えるよう整備されました。
しかし、職員宿舎自体は市のシンボルではないこと、また平成16年に景観法※が制定されたことから、地域内で多く見られる色彩から突出しないよう配慮する色使いがなされています。
※地域の良好な景観の形成を促進するため、平成16年6月に制定された法律
改修前はオレンジ色で目立つ印象がありますが、グレーの落ち着いた色合いに改修されたことによって周辺の景観となじむ外観へと変わりました。
このように、建築物の色は周辺環境の印象を大きく変えるものです。
近年は景観法によって「建築物の色は周囲の街並みから突出しないこと」が基準として定められています。
参考:平成28年度 建物の色彩計画が周囲に与える影響についての一考察
インテリアの色彩計画が人の心理に与える影響
建築物の色彩計画では「周囲との調和」を重んじますが、インテリアの色彩計画では「人の心理」について考えます。
たとえば、白を基調とした空間は「清潔」「広い」「明るい」などの印象を与えます。清潔感が重視される美容クリニックなどは、インテリアに白を配色することが多いです。
女性客の多いネイルサロンでは白やベージュ、薄いピンクのようなやわらかい色味が好まれます。
反対に、男性客がターゲットの床屋では黒や木目、深いブラウンなど落ち着きのある色を使ったコーディネートが人気です。
さらに赤やオレンジ、黄色は食欲を増進させる効果があるため、インテリアに暖色系のアイテムを取り入れる飲食店もあります。
色の持つ効果を有効に活用することで、その空間で過ごす人の心理状況は大きく変化するのです。
色彩計画の事例
ここからは、建築物の色彩計画の事例をいくつか紹介します。
事例1.京都府「歴史的市街地」
歴史的建造物が多い京都では、日本らしさや美しい街並みを守るために厳しい規則が設けられています。
たとえば、品格のある都市景観を形成するために原色の割合が多い広告看板は設置してはいけないルールがあります。
誰もが知るコンビニエンスストアやコーヒーショップも、オリジナルとは異なる配色がなされていますね。
観光地では、観光客向けに注意を促す看板も木造のものが多いです。
歴史的建造物を大切に扱い、街並みとの調和を徹底する色使いは、千年の都と呼ばれる京都ならではの色彩計画です。
参考
京都府「京の景観ガイドライン ■広告編」
京都府「京の景観ガイドライン ■建築デザイン編」
事例2.福岡市「福岡の色」
街中に緑地帯が広がる福岡市では、身近にある豊かな自然を基盤とし、伝統と都市の賑わいが共存する景観を目指しています。
海や川、植物など自然が持つ色を活かしつつ、建築物や工作物は賑わいと活気がプラスされた色彩計画を立てました。この計画では「福岡の色」と称する3つの色が活用されました。
- 市内に45種類以上ある「樹木の緑葉や紅葉の色」
- 市内50ヶ所以上の「歴史的建造物の色」
- 市内100点以上の「風土基盤を構成する大地の色」
福岡市内の建築物は、これらの色を基準に基調色・補助色・にぎわい色で色彩配色を構成しています。
事例3.大阪市「大阪城景観配慮ゾーン」
大阪市は、市のランドマークである大阪城天守閣の眺めを引き立てるための「大阪城景観配慮ゾーン」を定めています。
色彩計画の部分では「大阪城の眺めを阻害しない色彩」を掲げています。具体的には、建物の高層部は空になじむ色、低層部は大阪城の色や周辺の樹木になじむ色が基準です。
また、主要スポットからの眺望範囲にアクセントカラーを使用しないよう努めることも定められています。
参考:大阪市「大阪城景観配慮ゾーンにおける眺望景観に係る基準」
〜カラフルに彩られた大阪・新世界の色彩〜 ここまでご紹介した各地の色彩計画は、自然と調和する色使いを基準とするものがほとんどです。 日本では自然の景観から突出しないことを前提した色彩計画が多い中、大阪・新世界はそれと正反対の色使いがなされています。 大阪のシンボルである通天閣のお膝元には、カラフルな看板やネオンがが立ち並びます。下町ならではの活気あふれる雰囲気も相まって、大阪を訪れる観光客に人気のスポットです。 新世界の景観は、景観法が制定されるよりも前から色鮮やかなものでした。昭和の名残やレトロな雰囲気を味わえること、また他の観光地にはない唯一無二の魅力があります。 新世界は、世間の皆様がイメージする大阪を派手な色彩で体現している場所なのかもしれません。 |
事例4.フランス・パリ「地域都市計画(PLU)」
芸術や文化が栄えるフランス・パリは別名「芸術の都」とも呼ばれ、情緒ある美しい街並みが広がります。
フランスでは、都市景観政策として2000年に都市連帯再生法(SRU法)が制定され、各都市が地域都市計画(PLU)を策定しています。
PLUでは建築物の高さや大きさ、色彩に厳しいルールを設けており、色彩については「周囲の景観と調和するものであること」が定められています。
また、色彩計画とは少し異なりますが、パリは世界でもまだ数が少ない無電柱化率100%の都市です。
パリでは電力が供給された当初から電線が地中に埋設されており、市内のどこを見渡しても電柱は見当たりません。美意識の高いフランスならではの景観計画とも言えますね。
参考
長谷川秀樹「パリ都市景観政策におけるPLUと広告規制について(横浜国立大学学術情報リポジトリより)
国土交通省「海外の無電柱化事業について」
まとめ
色彩計画は建築やインテリア、商品パッケージなど、あらゆる分野で必要となるものです。
色の効果を知ることは、より快適な生活につながります。目的に合った色使いで、周囲との調和や心地よい空間作りに役立てましょう。
(株)COLORHOUSEは新築設計やカラーコーディネートを承っております。弊社は色彩計画を得意としておりますので、配色でお悩みの方はお気軽にご相談ください。